山登りデビュー その2

山を登ることを普通のスポーツ気分で考えていたが、大きな間違いだったことに入山してすぐに気がついた。

登山道に入ってみると、足下には石や木の根や水たまりや泥などで、スニーカーではとてもではないが困難な状況であり、購入したての登山靴が多いに役立つ結果となった。また、歩いていると体の周りを飛ぶ小さな羽虫や耳元をかすめる虫、足下をみると地面を這う虫や生物、水辺の近くではカエル?のような謎の鳴き声、頭の上では飛び立つ鳥など、周囲の生物の存在の濃さにとても戸惑った。

何よりも不安を感じたのは、「周囲に誰もいない」ことだった。

一人旅は何度も経験したこともあり、単独登山もその延長線で考えてしまい、大丈夫だろうとタカをくくっていた。が、実際にちょっと山の中に入っただけで、今まで気づくことがなかったようなワイルドな環境に直面し、旅行や街中で享受できていた「社会的な安全」というものが一切通じない状況であった。

一人で自らを取り巻く状況を総合的に判断し、行動しなければならないことが、決められた道を歩く(登る)というような簡単なものではなく、大げさに言えば冒険であり、少なくとも判断の拠り所になるような「他者」の存在がないことが不安を増加させていた。
 午後からの雨(厳密には荒れ模様)の予報のなかで、平日の妙見山には人っ子一人おらず、 正直にいえば気味の悪い雰囲気で、自然を楽しむという感じではまったくなかった。

最大の過ちは、登山用地図を準備していなかったことである。
観光用の登山案内のようなものはあったのだが、山の中にいるとどれが正しいルートなのか判断することが難しく、少し歩いては振り返ってみて正しさを確認していたものの、明確な登山道かどうか判断できないところが何カ所もあった。

大堂超コースを這々の体で山頂までたどりついたものの、当然のことながら山頂にも誰もいない。空をみあげると徐々に暗さを増していたことから、すぐに下山することにした。
下山は上杉尾根コースを選択したが、コース後半が初心者には非常に険しく、途中からはポツポツと雨も振り出し、やっとのことで集落につながる国道477号線に近づいたときに、予定していた合流箇所とはまったく関係のない場所に降りてきてしまったことに気がついた。

下りの険しさが急に増したと感じていたあたりで、実際には登山道をはずれてしまっており、道らしき道を下ってきた結果、たまたま集落の方に戻ってくることができたという感じだった。
雨も強くなってきているなか、何とか人気のある場所に着いたことで、安心感と疲れが一気に押し寄せてきて、駅にまでたどり着いたときには、ちょっと大げさだが「生きて帰ることができた」と実感した。

とまあ、反省点の非常に多い山登りデビューで、運動の汗以外に冷や汗を大量にかいた一日であった。